自工会の出した情報だけじゃ国民は判断できないんじゃね?その2

明けましておめでとうございます。Zweiglinieです。今年もちょっとは役に立ちそうな記事を書けたら嬉しいなって思っています。よろしくお願いします。
さて、ホゲーッとネットサーフィンをしていた時、奇妙な記事を見つけました。
gendai.ismedia.jp
本当はもっと早い段階で書きたかったのですけど、気力が無かったのです。今からやる気出します。今回はこちらの記事の不毛なツッコミを入れていこうと思います。
(おことわり:自動車も電気も素人レベルの知識です。詳細は専門家にあたってください。ご指摘はふわふわ言葉でお願いします。ホバーランランルーと言われると私の踵がミカンの皮になります。)

おさらい

続きものの記事ですから前回書いたことのあらすじでも。ざっくりと言うと

  • 会見で最も印象に残る情報を要約すると「自工会会長(トヨタの社長)が経済・環境・電力面からEV化への全面移行に懸念を示した。」になるだろう。
  • 会見で示された全面EV化の試算は計算過程と具体的な数値が示されず曖昧で、この情報から国民が判断するのは難しいのではないか。
  • 試算について詳細な情報が出れば健全な議論ができるのではないか。
  • 報道の中には変な要約をしている記事がある。

って感じですかね。

本当にテレ東の動画見たの?

さて、今回焦点を当てる現代ビジネスの記事ですが、面白いことにあの会見の報道の中で情報量が最も多いであろうテレビ東京の動画のリンクが貼られていました。このブログ記事にも参考文献の節に載せているYouTubeの動画ですね。この動画を基にして記事を作成しただと思って読み進めていたのですが、ページを追うごとに本当に動画を見たのか疑念が湧くほどに怪しい記述が出てきました。
なお現代ビジネスの記事を検証するにあたって、テレビ東京の動画からオンライン会見の書き起こしをしました。ちなみに書き起こしにはLua\LaTeXを使いました。Lua\LaTeXいいよね。Lua\LaTeX最高!Lua\LaTeX最高!
ということで順を追って指摘していきます。

カーボンニュートラルを進める政治家に苦言?

豊田氏の発言内容を、私なりにまとめると、次の3つになる。

1)「2050年カーボンニュートラル」が日本にとって何を意味するかということを政治家はわかって言っているのか?

自工会会長が一部の政治家に対して「政治家分かってる?」と言ったのは

  • 全てEV化したらどういう社会になるのかということ
  • ガソリン車さえなくせばカーボンニュートラルへの近道になる訳でないということ

の2点についてです。カーボンニュートラルそのものについて政治家批判はしていません。というかカーボンニュートラルそのものを批判するなら「菅総理の方針に貢献するため~」なんて言わないです。

2030年の販売規制?

しかし、氏はそれにもかかわらず、2030年代にガソリン車の新車販売を無くすことが、いかに困難であるかということを、多くの数字を上げて説明する。

少なくともテレ東の動画では、2030年の規制については述べていないはずです。数字を用いて達成困難であることを述べているのは2050年のカーボンニュートラルと乗用車が全てEV化した試算についてです。動画のどの辺りに2030年の規制について述べているのか追加で説明が欲しいところです。

電動化の定義に拘っている?

中でも拘っているのが、「電動化」という言葉の定義。氏は、「電動自動車」にはEV(電気自動車)だけではなく、ハイブリッドも含まなければならないと主張する。

私は自動車業界に詳しくないのですが、ざっと調べた限り少なくとも日本ではハイブリッド車は電動車に含まれます。自工会会長がわざわざ拘らなくとも既に含まれています。
clicccar.com
こちらの記事では電気自動車とともにハイブリッド車プラグインハイブリッド車が載っています。
ところで自工会会長は電動化の定義に拘っている様子を私は見つけられなかった(電動化=EV化でないと遠回しに言っているのは分かった)のですが、動画のどの辺で電動化の定義に拘っているのでしょうか?

ピークが冬?

乗用車400万台をEVにすれば、特に冬場は電気が10〜15%も足りなくなる。

電力のピークは基本的に夏ですが。動画中で冬という単語は1回も出てきません。

蛇足「冬がピークになる例外」

電力需要のピークは基本的に8月の昼間です。これは猛暑による冷房の需要によるものです。
しかし、北海道電力ネットワーク管内は例外で冬の夕方がピークです。これは家庭の暖房やロードヒーティングなどの融雪の需要によるものです。もしやこの現代ビジネスの記事の著者は北海道電力ネットワーク管内にお住まいなのでしょうか…?
https://thesis.ceri.go.jp/db/files/GR0002900555.pdf
https://wwwc.hepco.co.jp/hepcowwwsite/info/2017/__icsFiles/afieldfile/2017/10/12/171012b.pdf

消費電気?

EVの完成時に行われる充放電の検査では、一台につき平均家庭の1週間分の消費電気がただ無駄になるそうだ。

消費電気って何でしょうね。電力P [kW]でしょうか?電力量E [kWh]でしょうか?「電力量」と言えば伝わるはずです。また「平均家庭の」ではなく「家1軒分の」です。この文では家の何軒分の電力量なのかが分かりません(そもそも家1軒分の1週間分の電力量が分からないのですがそれは置いておいて)。変な要約がされているせいで余計な混乱を招きます。

正しい報道とは何なのか

オンライン会見では報道の在り方についても言及していて、現代ビジネスの記事もそれに便乗したかのような書きっぷりです。しかし、この記事では大手のメディアならまず間違えないであろう2030年の規制との取り違えや誤字、変な要約などがあります(毎〇新聞の話はひとまず置いておきましょう)。他の報道機関を批判できるようなものではないのではないかと個人的に思います。

おまけ

最近のLNG不足で電力がヤバくて電力融通しまくっている、というので思ったのですが、オンライン会見で言っていた日本のピークの電力が足りないと一言に言っても、どの送配電会社に何kW足りないんだろうなあと思いました。前述のように北海道電力ネットワーク管内では電力のピークが冬のために夏は比較的余裕が生まれます。それとも北海道電力ネットワーク管内でも夏は足りないのですかね?送配電会社によって電力事情は異なっていますから、それを加味した試算の内容の公表を待ち望んています。

おわりに

いかがでしたでしょうか?オンライン会見からもうすぐ1か月が経ちますが、分からないことが分かった状態から特に発展していません。それどころかこのようなよく分からない記事が出てきたので、このブログ記事を書いた次第です。
健全な議論・世論の形成は大切ですが、Twitterでざっくり見た限りはこの現代ビジネスの記事を鵜呑みにしている人がいる辺り、健全な世論からはほど遠いように思います。また、昨今の電力危機に託けて電動化を批判するツイートも見かけてなんだかなあと微妙な顔をしています。電動化=EV化ではない、というのは当の自工会会長が言っているのにも関わらず…
それはともかく、これから健全な議論ができることを願っています。あ、議論については私はお断りしますよ?