NTTの電力業界参入報道とその反応に対して思うこと

29日の夕方に日経新聞が報道し、30日の朝刊では1面を飾ったNTTの電力業界参入。

Twitterでの反応や検索して見つけた記事を見て思うことをつらつら書いていきます。

(おことわり:私は電気電子工学科を卒業しておきながら第三種電気主任技術者すらも取れないクソザコです。電気屋を自称しておきながら実は電気はあまり詳しくないのかもしれないです。)

そもそも報道とは

これとか

www.nikkei.com

これのこと

 W(ワット)を小文字で書くなとか万kWのような頭悪い単位なんか使うな、なんて細かいツッコミはまた別の機会にします。

あたかも初報のような反応をしている人がちらほらいましたが、去年の11月には既に同じような報道が出ています。

NTTが独自電力網 全国拠点に蓄電池、災害時に供給も :日本経済新聞

NTTが発電・送電網整備に6千億円 蓄電池活用し電力最適制御 災害時にも - 産経ニュース

電力業界に風穴を NTTが独自送電網を整備へ - 毎日新聞

新聞社を3社ほど用意してみました。好きなのを選んでね!私は3社とも好きじゃないんだけどね

11月の報道と比較すると累計投資額が4000億円増えている点が目立つところでしょうか。まあ日経は全文見られないんであまり突っ込んで言えないのですが。

一般家庭には影響はあるのか

電話線を使う?

現時点では全くと言っていいほど影響はありません。NTTは自社以外に配電する需要家は電話局付近の工場や病院などの法人向けに限る方針です。電話線で配電すると思い込んでいる方が見られますが(冗談で言っている人もいましたが)、電話線の電圧は48Vで低圧配電線の100Vの約1/2の大きさ、つまり電線での損失が約4倍になります。というか直流48Vを家庭に引き込んだところで何に使うんですかね…?

電信柱?

NTTが所有している電信柱も特に関係ないと思われます。電信柱は電話線と低圧配電線しか架けられません。低圧のみの配電で電力会社よりも効率が良くなることはまずないでしょう。

もしかしたらの話

もしかしたらの話ですが、一般家庭に影響があるとすればマンションや大きいアパートなど、特別高圧もしくは高圧で受電している施設に入居している世帯でしょう。報道ではマンションには配電しなさそうですが、低圧で受電している一軒家に比べればハードルは低いかなと思っています(低圧受電では直流用の変圧機器が必要になりますから、とんでもない額の投資が必要になります)。あくまで将来的な話ですね。

ともあれ、ほとんどの一般家庭では影響はありません。電気代が安くなる?何を言っているのやら。

電力会社に影響はあるのか

特別高圧もしくは高圧で受電している法人向けであれば競合相手になり得るでしょう。また、発電事業者が取引先をNTTに切り替えて電力会社の再エネの割合が落ちる可能性もあります。NTTは大規模な蓄電池を配備することから出力抑制をかける回数を減らせる可能性がありますし、そこをアピールポイントにすることも出来るでしょう。

ただ自社のための配電線を引くとはいえ、既設の電力会社の高圧配電線を切る(いわゆるオフグリッド)までやるかと言われるとそこまでしないかと予想します。非常時や再エネからの電力が不足する場合などに引き続き電力会社から高圧で受電するかと思います(というか足りない時は電力会社から持ってくるイメージ図があった気がするのですが見つかりません…見つけたらリンク貼っておきます)。古くから広大な送電網を構築しているJR東日本も足りない時は東京電力から調達し、東日本大震災の電力危機では東京電力に電力を融通しています。

https://www.jreast.co.jp/press/2010/20110312.pdf

電力会社への利点があるとすれば、大規模な蓄電池を活用してピークシフトが可能なところでしょうか。特にこれからの季節は日中の最大電力をいかに減少させ、他の時間帯の需要を上げるかが課題です。ピークが緩和されれば発電の負担が軽減され、設備に余裕が生まれます。

前述の通り、現時点では一般家庭への影響は皆無ですので、高圧受電の法人では競合するものの、ある程度は共存するのではないかと予想しています。

電力会社より損失が少ない配電網とは一体何者なのか

個人的に興味を惹く部分はここでしょうか。今回の報道で記述があったかは分かりませんが、去年11月の報道では電力会社よりも損失の少ない直流で配電するとの記述があります。

さて、送配電損失は一般的に5%です。効率に換算すれば95%ですね。現時点の電力会社でも結構優秀です。ちなみに当然ながら電力会社によって損失(効率)は異なります。下のPDFの9ページに電力会社ごとの電圧別送配電ロス率の実績が記載されています。

https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_electricity/pdf/036_05_00.pdf

当初は22kV級に匹敵する特別高圧で配電網を構築するのかと思っていました。しかし、送配電効率は元から高効率ですから、無効電力が存在しない分だけ電力会社よりも効率が良くなると言いたいのではないか、つまりは公称電圧はさほど高いものではないのではないかと最近は予想しています。

現時点では

  • 直流を用いる
  • 電力会社よりも効率が良い

の2点しか公表されず、どのような仕様になるのか楽しみでもある反面、本当に効率的な配電網になるのか不安でもあります。

まあ続報を待ちますかね。

注意すべき点

これはこの報道に限らず再生エネルギー関連の広報・報道に言えることなのですが、発電容量と発電出力は同じではありません。太陽光発電風力発電の出力は常に変動するもので、発電容量の電力が常に発電できるわけではありません。既に建設しているものであれば実績の値(最大出力や年間発電量など)を見る方が現実的です。

ただしNTTは既設の発電所から調達するにしても実績がありません。これから作るものです。そのため、一定の目安・目標として見るべきものかと思います。

心配な点

気がかりなのは蓄電池の寿命と扱いです。交流配電の要である変圧器の一般的な寿命は25年から30年ほどです。

faq.hitachi-ies.co.jp

対してNTTの配電網の要である蓄電池の寿命はリチウムイオン電池なら10年、NAS電池なら15年ほどです。

www.eco-hatsu.com

環境によっては劣化が早まるために予想以上に経費がかからないか心配になります。

また、NAS電池は材料にナトリウムを使用しているため、火災が発生すると消化に手間取ります。

http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/paper/r_11/11tyoukan2.pdf

電話局の有効活用ということは蓄電池が置けるように改築するでしょうから、無理な設計にならないか心配です。まあそんなヘマはしないでしょうけれども。

最後に

個人的に面白いプロジェクトだとは思います。ただ何度も言うように一般家庭への影響は現時点で皆無ですので、普段の生活が劇的に変わるものではないことは留意しておくべきことでしょう。仕様が固まり、工事が始まるまで時間がありますから続報を気長に待ちますかね。技術的にどんな物に仕上がるのか楽しみです。