千葉の大規模停電について2

イッタランドで電力に関することを検索しては検索結果に頭痛が痛くなる日々を過ごして初投稿です。

 今回は無印記事での補遺に近いものです。特に真新しいことは言ってません。

停電が長期化した原因

多方面から参考になる記事が出ていますので、そちらのリンクを貼り付けておきます。

news.yahoo.co.jp

comemo.nikkei.com

前回の記事でも言っているように、送電と配電は別物で、今回の停電の長期化は「配電が中心」です。送電でも鉄塔の倒壊など事故は起きていますが、事故点の開放と迂回により、送電網による停電長期化は回避しています。

 

風圧荷重について

停電長期化の一因として暴風により配電線の電柱が倒壊したことが挙げられます。報道でもよく取り上げられるように法律では風速40m/sの風圧荷重に耐えられなければならないように設置しなければなりません。この法律を基に「大規模停電は想定内」と論ずる方を見かけたのですが、風速40m/sの風が吹けば電柱は倒壊するものなのでしょうか。

denchuu.net平成30年台風21号の関西電力管内で発生した大規模停電の際に書かれた記事が参考になります。

どのような構造物もそうでしょうが、決められた設定値ギリギリで設計することは
まずない。電柱も然り。風速41m/sになれば折損するかと言えば折損しないのである。
電柱の風圧に対する安全率(折損に対する安全率)は関西電力は2.0を基準としている。

推測ですが、東京電力もなにかしらの安全率を取って設置していると思われます。また、別の法律では木柱では1.1-1.3の安全率が取られ、鉄柱・コンクリート柱では基礎に安全率2が取られています。

当然ながら、観測された風速と電柱に吹いた風速は違ってきます。

即ち、風速40m/s以上が観測されたからといって、その地域の電柱がすべて折れるとは限りません。

 

これからの対策

既に公官庁で台風による停電対策が検討されています。

www3.nhk.or.jp

電線地中化

おそらく多くの人が思い付く対策でしょう。いわゆる無電柱化です。しかし、無電柱化の推進には資金面での課題があります。

資金面での課題

nlab.itmedia.co.jp

場所による方式の違いもあり一概にはいえませんが、3倍~10倍高くなり、1キロあたり1~5億円必要です。

 土木工事が電柱部分のみだった架空電線とは違い、全線にわたり土木工事を行う地中電線はどうしても高くつきます。

この費用を、国や地方自治体、事業者(電力会社など)が3分の1ずつ負担する方式が主流です。

電力会社だけでなく自治体も負担する方式が主流ですので、財政が厳しいところでは容易に進まないでしょう。また、多くは道路に埋設しますから、道路の所有者(多くは自治体)の調整がつかないと工事は始められません。全線を地中化する場合には、おそらく何十年度もの歳月がかかります。

電線地中化は万能か

架空でも地中でも一長一短です。どちらの方式も万能ではありません。個人的な意見を述べると、現時点では地中の方が利点が大きいと思っています。理由は大きく2つあります。一つは暴風だけでなく鳥害(巣作りなど)・雷害(雷による異常電圧)・塩害(塩分による絶縁性能の低下)・着雪(電線に雪が付着)に効果のある対策であること。もう一つは巨大地震の際に倒れる電柱が存在しないことです。電柱が道路に倒れていると復旧の前段階である救助すらままなりません。他の地域から非常用発電機を確保するためにも、まずは交通の確保が優先ではないかと思います。

もちろん地中線にも欠点はあります。ですから、反対するよりかはその対策を考慮するべきではないかと思っています。

地上変圧器

蛇足です。無電柱化を施した地域では変圧器を車道寄りの歩道に置きます。つまり車がウッカリ歩道に突っ込んでしまうと変圧器を破壊する可能性があります。変圧器は結構お高い物ですから、弁償ともなると高額になります。運転支援の機能が増強されているとはいえ、無電柱化した地域を運転する際には特に注意が必要です。

規格の改訂

現在は風速40m/sの風圧荷重に耐えられるように定められている規格を、さらに上げようというものです。前述のように無電柱化は全線においての達成は難しいですし、仮に法律などで架空電線の撤廃を決定したとしても、私が生きている内に達成できるとも思えません。

無電柱化の推進と合わせて、地中化の難しい地域ではより風圧荷重に耐えられる電柱を建てることが現実的ではないかと思います。

ただし、これは風圧荷重により電柱の倒壊を防ぐ手段で、今回の一因である倒木による停電には意味がありません。「防災」よりかは「減災」の手段であることを覚えておきましょう。

治山

上記の様に、倒木が停電長期化の一因です。電線付近で倒木が起きないように対策はするべきですが、私は林業の専門家でもありませんので、なんとも言いようがありません。

送電網の強化

停電長期化とは無関係ですが、倒れた鉄塔を見て送電網の強化を論じる方々を見かけます。鉄塔の保守整備をこれから強化するか、地中送電線にするかなどの対策は必要ではありますが、新たに送電線を引くことには疑問を感じます。

何度も言うように送電線鉄塔の倒壊と停電長期化は無関係です。

www.sankei.com12日(台風通過の3日後)の時点で迂回送電により鉄塔倒壊による停電はほぼ解消しています。また、275kV以上の系統図だけを見て批判する方もいますが、今回倒壊したのは66kVの鉄塔です。66kVの送電線は房総半島を一周し、加えて縦断するものもあり、素人目線だと十分な送電網と思います。

全くの無駄、とまでは言いませんが、地中送電線化や配電網の充実に資金を回す方が費用対効果が高いのではないかと思います。

余談1

基幹系統の送電線の地中化に反論する方を見かけましたが、新京葉変電所から新豊洲変電所までの送電線、新京葉線は500kVの地中送電線です。現役で活躍しています。

余談2

東京湾に基幹系統送電線を新設して円周状とする論は面白いと思います。目ん玉飛び出るほどの金額になると思いますが。

配電網の強化

おそらくこちらも重点に置かれると思います。配電網は樹枝状方式や環状方式など様々な方式があります。

e-sysnet.comそれぞれが費用対効果を検討して方式を決定していきますが、千葉県の近郊・郊外ですと供給信頼度が低い樹枝状方式を採っていた地域も多いだろうと推測します。供給信頼度の高い配電方式に変更したり、迂回電線路を新設したりなど様々な対策を取れます。ただし、家の前の電線が切れてしまったり、迂回電線路全てが倒木で配電できなくなったりすると停電は不可避ですから、「減災」に近い対策です。個人的に費用対効果は高いと思っていますが、こちらも万能策ではないことを考慮するべきとも思います。

 

おわりに

今後取られるだろう対策やネット上で見かける論をざっと取り上げてみました。他にも興味深い事象が飛び交っていますが、千葉の大規模停電に留まらない話になりますので、別記事で楽しく(?)述べていこうかなと思っています。何しろ私の選挙区から選出された国会議員が環境大臣になって色んな発言してますからね。

長い説明でしたが、最後にこれだけは覚えて帰って、どうぞ

・送電と配電は別物。深刻化した原因は配電

・すぐに打てる対策の多くが「減災」。万能策は無いに等しい。

 

それではおやすみなさーい。