(おことわり:私は飛行機の専門家でも飛行機に詳しい人でもありませんので、その辺を考慮して読んで貰えるとめっっっっっっっっっちゃありがたいです)
9月下旬に国連でスピーチした北欧の少女が今に至っても話題になっています。
環境負荷の大きい飛行機を使わないためにアメリカ西海岸からスペインまでの移動に困っているらしいです。
さて、この少女のスピーチをきっかけに「飛び恥」という訳語がNHKなどから報道されてきています。
www3.nhk.or.jp初めはNHKが勝手に作りだした単語かと思っていましたが、flygskamという英語を訳したものみたいです。
blog.goo.ne.jp鉄道が環境負荷の小さい乗り物として注目を集めるのは、車内設備や地上設備を見て日々gfffしている鉄道ウォタークとしては嬉しい限りです。私もインバータや永久磁石同期電動機に注目し始めたのは環境問題がきっかけですし。鉄道が今以上に栄える姿は見てみたいです。
しかし、本当にそれで良いのでしょうか?他の交通機関から鉄道を利用することが環境対策になり得るのでしょうか?
鉄道に有利な面
まず、鉄道は他の交通機関と比べて何が利点なのでしょうか?一般的には以下の点が挙がります。
- 時間通りに運行する(定時性)
- 大量の輸送力がある(経済性)
- エネルギー効率が良い(環境性)
大きくはこの3点です。
今回は経済性とそれに派生する環境性について呟いていきます。
経済性
鉄道はバスや飛行機と比較して大量輸送に長けています。これは車両を増結・解放が容易であることが可能にしてます。
都市鉄道に観点を置くと、毎日何万人という旅客を輸送しています。首都圏の路線で1時間の間に最も輸送量の多い路線は中央快速線で81,560人です。民族の移動かな?
https://www.mlit.go.jp/common/001245347.pdf (国土交通省:東京圏における主要区間の混雑率)
これをバスで輸送すると907台のバスが必要になります。等間隔だと4秒に1本バスを出さないと間に合わない計算です。全て普通自動車で輸送するとさらに悲惨なことになります。これだけの人数を道路だけで捌くのは無理難題です。大量かつ高速の輸送が可能であるのは鉄道の特長ということになります。
高速鉄道に観点を置くと、日本には新幹線が大動脈を文字通り担っています。東海道新幹線は16両編成で定員が1323人と飛行機の定員の2倍を輸送できます。一列車の輸送力が高いことは都市鉄道でも明白ですが、高速鉄道の利点としては飛行機と比較して続行運転が容易であることも挙がります。高度な設備(ATCやホームの増設)を導入することで最大毎時15本もの運転を可能にしています。飛行機にこれほどの本数を同一路線を運行することは難しいです。
都市鉄道にせよ高速鉄道にせよ、多くの人を運べることが利点です。鉄道は乗客の一人一人から運賃を徴収するため、多くの人が乗る場合には一人当たりのコストが下がりやすくなります。つまりは運賃を安く設定できることになります。これは都市鉄道に顕著に現れます。日本の多くの大手私鉄は2kmほど移動するのに200円もかかりません。バス、タクシーではこれほどの廉価での移動は難しくなります。
経済性から派生する環境性
ここまでまどろっこしい話を続けてきましたが、ここで交通機関の二酸化炭素に関する資料を思い出して下さい。
二酸化炭素の排出量についての棒グラフはよく見かけるものかと思いますが、この棒グラフの単位に注目します。
[g-CO2/人km]
うわっなんだこの表記…なんかよく分からない単位をしていますが、日本語で言うと「1人の人が1km移動する時に交通機関が排出する二酸化炭素の量」です。はい、「1人当たりの量」なんです。「一人が出す量」です。
グラフにおいて、鉄道は圧倒的に排出量の少ない交通機関と読み取れますが、それは大量輸送が可能であるために一人当たりの排出量が圧倒的に少なく見えるだけなのです。1列車当たりだと比較的少なくなる、という方が正確と推測します。
蛇足1
1台で乗る人数が少ない乗用車は一人当たりの二酸化炭素の排出量が多くなる、というのは当たり前の話になります。
蛇足2
本当は1便(1列車)当たりの定量的な比較をしたかったのですが、鉄道と飛行機は車両・機種によって定員がバラバラで、あまりにも客観性に欠けてしまうために断念しました。
蛇足3
1列車当たりの二酸化炭素の排出量でも鉄道の環境における優位性は揺らぐものではありません。電動機の効率は9割を超え、回生ブレーキで電力を有効活用しているためと推測します。
飛行機は環境に悪いのか?
さて、本題です。環境少女は欧州からニューヨークまでの4800kmをヨットで渡りました。
2週間前の出発時、
えっそんなにかかったの?
飛行機の直行便では8時間もあればニューヨークから欧州のあらゆる都市に飛べます。PRも兼ねているのでしょうけれども、欧州とアメリカの移動で2週間もかかるようならハッキリ言って使い物になりません。仮に一国の大統領や社長が大西洋を横断する際に、2週間かかるヨットと半日かかる飛行機の選択肢があるならば、ほとんどの人が飛行機を選ぶと思われます。
飛行機は世界に必要な物
ところで、エアコンって便利ですよね。夏場は涼しく、冬場は暖かくしてくれます。ここでなんか知らん人から「エアコンは家庭で最も二酸化炭素を排出するので恥」と言われたらどうでしょう?少なくともツイッタランドでは間違いなく社会的に殺されるかと推測します。
飛行機は環境に良いか悪いか、の前に多くの路線では地域・国にとって必要なものではないかと思います。「飛び恥」は欧州で流行りを見せていますが、欧州は鉄道路線が多く走っているために飛行機の代替が比較的容易でしょう。しかし、他の地域にそれが可能でしょうか?超長距離の大陸間移動で飛行機以外の手段があるのでしょうか?手段があったとして、その手段は代替が容易なのでしょうか?
恐らくないでしょう。船にしたって時間がかかり過ぎるんですもの。ですから飛行機は必要なものなのです。エアコンと同じです。
日本はどうあるべきか
日本人なのでヨーロッパで流行っているなら日本も乗るべきか反るべきかという話をしたくなってきます(主語がでかすぎる)。ここでもう一度国土交通省の資料を見てみましょう。
www.mlit.go.jp一番上の図では運輸部門の二酸化炭素の排出量が載っています。これは日本全体で運輸部門が排出している二酸化炭素の割合です。飛行機の二酸化炭素の排出量は…
航空
1,040万トン [4.9%]
5%とさほど多いものではないですね。
自家用乗用車
9,850万トン
[46.2%]
うおっすっげ…
気にするべきは自動車、というのは言わなくても分かりますね。
蛇足
ここで「自家用車は恥」なんて言ってしまば袋叩きです。バス・鉄道が使えないレベルの利便性であったり、公共交通機関が全く存在しなかったりする地域は山ほどあります。自家用車もまた必要な物の一つです。
出来るだけ利便性を落とさずに車の利用を減らす試みはあります。モーダルシフトやパークアンドライドなどなど…。そういった行政の取り組みが環境負荷の小さい社会づくりになっていきます。
結論
- 鉄道も相応の環境負荷はかかる。
- 飛ぶことを恥じたって割合考えたら大した量じゃないから気にすんな。
どうしても気になる方
日経が良い資料を作っています。
700km - 1000kmで鉄道利用と飛行機利用が拮抗しているのが分かります。この状況は例として挙がっている東京 - 広島間のシェアとほぼ同様です(鉄道というより新幹線ですねこれ)。シェアが拮抗しているところはどちらを選んでも利便性はほぼ同様という例が多いです。もちろん、出発地や目的地によって利便性は変わってきますが、ちょっと不便だけど鉄道!というなら環境負荷は比較的軽いものになります。
利便性が皆無だとかえって環境負荷が大きくなる場合もあります。飛ぶことは恥ではありません。出来る範囲で変えてみる。それが世界を変える一歩なのではないでしょうか。
おまけ
記事をダラダラ書いている間に環境少女の支援が決まったそうで。スペイン政府は寛大だなあ。
電気自動車(EV)などで移動していた。
(鉄道で移動しなかったのか…)